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Lee-Byung-hun addicted

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『2007/07/12 AM8:30』

『2007/07/12 AM8:30』




「ねぇ・・本当に誰も来ないかしら」

揺は大きな重箱の包みを開きながら心配そうにそうつぶやいた。

「大丈夫だよ。こんなに広いんだから。おお~~~旨そう~」

芝生の上に腰を下ろしたビョンホンは嬉しそうに答えると重箱に綺麗に詰められた卵焼きをひとつつまみ一気に口に放り込んだ。

「やっぱ・・不二子さんの料理は最高だね。」

もぐもぐと口を動かしながら感動する彼に向かって

「それは私が作ったの」

揺は自慢げにそう言った。

「へぇ~揺も腕上げたんだ。お前が作って旨いのはおにぎりだけかと思ってた。」

バクバクと料理をつまみながらゲラゲラと笑う彼。

「ひどい・・・でも、おにぎりだって結構奥が深いのよ。ちょうどいい崩れ加減にするの難しいんだから。こう・・・ホロッと・・」

説明している彼女の口にビョンホンはタコさんウインナーを突っ込んだ。

「揺も食べて・・調子良さそうに見えるけど・・大丈夫か?」

そう問いかける彼の眼差しはとても温かい。

   *******************


2007年7月12日 北の丸公園午前8時30分

駐車場が開くのを待って

2人と1匹は揺のジヴェルニーグリーンのカングーから降り立った。


この日は彼のファンミーティング当日。

映画の撮影の合間を縫って来日する彼には自由になる時間があるわけもなく。

久しぶりに二人が再会したのは昨夜・・・正確に言えばほんの数時間前の明け方だった。

ファンミーティングの打ち合わせとリハーサルを終え、
彼は一目散に下落合の揺の元に向かった。

「どんなに遅くなっても必ず行くから」

ビョンホンからのメールを受け取った揺は初夏の夜空を眺めていた。

「もう2時か・・・・今日はお月様出てないのかな」

揺の部屋の窓からは月は見えない。

まだリハビリ中の揺は大好きなワインも我慢してゆっくりと温かいハーブティーをすすっていた。

胃の全摘手術を受けたのは3月の終わり。




「もうあれから3ヶ月か・・・」

彼に最後に会ったのは手術後まもなく。

「奴・奴・奴」クランクイン前の忙しい合間を縫って日本に駆けつけた彼は揺が術後一番苦しい間ずっとそばにいて手を握っていてくれた。

揺がふと目を覚ますと彼はベッドの傍らで台本を必死に読んでいる。

何度も繰り返し読んでいるその台本はまだクランクイン前だというのにもうずいぶん傷んでいたっけ。

揺はDVDの画面に「ニューシネマパラダイス」のキスシーンだけを集めたフィルムが流れるシーンを眺めながら台本に目を落とす彼の姿を思い出していた。


会えない間
揺からメールをすることはなかった。

電話もかけなかった。

揺は決めていたから。

クランクインしたら・・・彼の時間は映画のものだと。

彼が自分を必要とするときだけ
彼の中にいることができればそれで充分だった。

それでもほとんど毎日のように彼と話せたのはどれだけ彼が揺を心配し、大切に思ってるのかという証しに他ならなかった。


・・やっぱり会いたい。

手元のクッションを抱きしめて揺は膝を抱えた。





「何してるの?」

その声に驚いて揺が慌てて顔を上げるとビョンホンが自分の隣に座ってDVDプレーヤーのリモコンを操作していた。

テーブルに置いてあったクッキーをつまみながら・・・・。

まるでもうずっとそこにいたかのように彼は揺の隣に座っていた。

「このシーン好きなんだよね。ジャック・ベランが結構いい表情するだろ」

サルヴァトーレがひとり試写室に入る画面が映る。

とても嬉しそうな顔で画面を見つめるビョンホンを
揺は隣に座ってそっと微笑んで眺めていた。

あんなに待っていたのにかける言葉を失っていた。

ただそばで眺めているだけで幸せな気持ちが溢れてくる。

「ほら」


涙を溜めてぼ~っと彼を見つめていた揺の肩を彼は不意に抱きしめた。

「一緒に見よう・・・・勉強しなくっちゃ」

「うん」

揺は小さく頷いた。

最後にFineの文字が映りエンドロールが流れる・・

「揺・・・」

「うん?」

「何でこの映画観ていたの?」

「それは・・・・どうしてかな。きっと・・・あなたの誕生日だから・・あなたの好きなものが観たかったのかな。」

そう答える揺を彼はそっと抱きしめる。

「何だかおかしな理由だな。」

彼女を胸に抱え彼はクスッと笑った。

「で、誕生日プレゼントはどこ?」

「ここ・・って言いたいところだけど。もう・・・朝よ。休まなくっちゃ」

「嫌だ。しっかりもらわないと。」

彼はそういうと両手で揺の頬を包みそっとキスをした。

そして彼女を軽々と持ち上げる。

彼の首にしがみつき彼の耳元で揺はそっとつぶやいた。

「ま、いっか。せっかくの誕生日だものね・・ビョンホンssi・・お誕生日おめでとう」

そしてそっと微笑み、彼の頬にキスをした。



*************




「今、何時?」

「もう4時よ。少し休まないと。目の下に隈があるあなたなんて・・・」

自分の腕の中で言いよどむ揺の顔を彼が覗き込んだ。

「?」

「ちょっと好きだけど・・今日はダメよ。皆心配するから」

彼はクスクスと笑いながら

「わかった。じゃ、揺の膝枕で寝るか」

「どうぞ。でもちょっと硬いかも。」

「大丈夫。硬い枕好きだから」

彼はTシャツを慌てて羽織ってベッドに座った揺の膝の上に頭を乗せた。

「うん。ちょうどいい」

彼は満足そうにそういうとにっこりと微笑んだ。

揺は目を瞑った彼の髪をそっとなで、寝顔を見つめる。

きっともうクタクタなのに無理して自分の元に来てくれたのだと思うと嬉しかったが胸がキュッと痛くなる。

彼女のもう片方の手は彼が握っていた。

いつものようにそっと優しく揺の指をなでながら・・・。



次第に撫でていた手の動きが止まり、寝息が聞こえ始める。

「本当に疲れていたのね」

揺はしばらく彼の寝顔を見つめた後、そっと彼から離れた。

一度眠ってしまったら余程のことがないと起きないほど彼の寝つきはいい。

「美味しいものいっぱい作るね。ビョンホンssi」

揺はそうそっとつぶやくと彼の頬にそっとキスをしてゆっくりと部屋を後にした。



***********************



「ふぁ~~~~あ。良く寝た~。うぁっ、3時間も寝ちゃった。揺どこに行ったのかと思ったら何してんの?」

大きなあくびをしながらキッチンに入ってきた彼は揺の肩越しにそう訊ねた。

「ん?だって足しびれちゃって・・だから逃げ出してお弁当作ってたんだ。ね、おとめ山公園行かない?」

嬉しそうに誘う揺。

「いや、もっといいところに行こう。近いし。」

ビョンホンはそう言ってにっこりと笑うと重箱に詰めかけのおにぎりを丸ごとひとつ頬張った。



*********************





「近いしねぇ~。確かに近いわ」

揺はサイドブレーキを引きながらそう言って笑った。

「でしょ。」

助手席の彼がしたり顔で答える。

「でも、大丈夫かしら、こんな間近で」

ブツブツつぶやいて車を降りようとする揺の腕を彼が掴んだ。

「待って。昨夜の復習。」

「え?」

彼が揺の顎に手をかけ・・・揺が目を瞑った・・。

と後部座席からトムクルが二人の間に顔を出す。

「トムクル邪魔!お座り」

「くぅううん」

揺にいつにないすごい勢いで命令されたトムクルは後部座席で静かに座って尻尾を振っていた。


*********************




「あ~~~食った食った。」

ビョンホンは芝生の上に大の字になった。

「ほら」嬉しそうに腕を叩く。

揺はにっこり笑って彼の横に寝そべった。

「気持ちいいね・・・・」

「ああ・・最高だ・・・」

二人の顔をトムクルが舐める。

ふざけあっているうちに時間があっという間に過ぎていった。


「ねぇ・・そういえば・・時間・・大丈夫?」

「あ、やばい。もうこんな時間だ。揺といるとすぐ時間が経っちゃうよ。」

腕時計に目を落とした彼は慌てて靴をはく。

「送って行こうか」

「いや、走ったほうが速い」

「え?その格好で?誰かいたらどうするの?」

「いないよ~こんな時間に」

「そうかな・・・入り待ちとかしてるんじゃない?」

「え~~~っ。こんな時間だよ?」

「こんな時間だからよ。」

「え~困ったな。帽子持ってきてないよ。じゃあ・・・これ貸して」

「え?」

ビョンホンは重箱の包んであった風呂敷をほどいている。

「うそ」驚く揺に向かって

「ホント」

風呂敷をかぶった彼は悪戯っぽく笑いかけて揺にそっとキスをした。

トムクルの頭を撫でながら

「じゃ、武道館で待ってるよ」と言い残し

新緑の生い茂る木立の中を颯爽と駆け抜けていく風呂敷をかぶった彼の姿を眺めながら揺はとっても幸せな気分だった。



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